顧客体験を販売する?”RaaS”ってなに?

Eコマース, マーケティング

RaaSとはRetail as a Serviceの頭文字を取った言葉。
顧客に対するサービスではなく、BtoBへのリテールビジネスモデル。

最近よく聞く(業界によってはスタンダードだと思いますが)”SaaS”だ”PaaS”だ”MaaS”だと
みんなそれっぽく話をしているけれど、覚えられなくて頭を抱えている人はいますか?
私は理解が浅く、聞くたびに検索しています苦笑。
先日、次はRaaSだ!という記事を見つけて、「来た!また出たよ!as a saerviceシリーズ!」と思いつつも、15年以上小売業界に携わってきたので見逃せない!と思い調べることにしました。


■最初は単なるシステム購入の事かと思った

調べてみると”RaaS”とは
「革新的な仕組みを持つ小売企業がIT企業と協業し、他の小売企業へ優れた仕組みを提供するサービスの事」、と書いてある。
ふむふむ。
多様化するニーズに合わせて個別システムを開発するのは、中小企業には重たい負担だから、
大手行企業が開発したシステムを買い切りではなく手軽に使えるサブスクリプションシステムにして、時代の変化に柔軟に対応しましょう!みたいな感じかな・・?
でも、なんだかピンとこない。
色々探しても同じような内容の記事しかみつけられない…。


■製品を売らない店舗 b8ta(ベータ)のビジネスモデル

”RaaS”で検索しても、次に来るサービスだぞ!みたいなことしか書いてないし、説明もあまり腹落ちしない。
でも、事例を読むと必ず紹介される企業がある。それは、2020年に日本に上陸したb8ta(ベータ)という企業。
ベータに近づけばRaaSに近づける?
ちょっと調べてみることにしました。

b8ta(ベータ)
b8taは2015年に米国サンフランシスコで生まれた小売企業。
商品をその場で売ることを主目的にせず、展示品を体験する場を設け、店内に設置したAIカメラから来店者の行動分析データを取得し、マーケティングデータとして可視化し提供する「RaaS(Retail as a Service、小売のサービス化)」のパイオニアとして誕生。
2020年に日本でのサービスをスタート。
https://b8ta.jp/

ベータには、ひと区画月30万円を半年以上契約することで自社の商品をb店頭に出品できるというシステムです。
必要なのは顧客に体験してもらうための商品と、PRなどを流すディスプレイや、ベータ側のスタッフが商品説明が出来るようにするための説明書きがあれば十分でしょう。
商品を売らなくてもいいので在庫も必要なく、スタッフも用意しなくていい。
企業は店舗出店ではなく期間限定の区画出店で、店頭に立つスタッフもベータ側が用意するため、小規模のブランドにとっては費用負担も軽く手軽に顧客のニーズを収集できます。WEB広告に出稿するような気軽さで企業が出品できるのが特徴です。

上記のような内容だけであれば展示会に出展するようなイメージですが、特徴的なのは、店内にあるAIカメラで、顧客の行動データを収集、蓄積し、分析を経て可視化され、出品企業にフィードバックをするというサービスなのです。

・どんな客層がどの商品に対して足を止めたのか
・最初に何を見て商品を手に取っているのか
・どんなタイミングでその場を離れてしまうのか


WEB上でのオンライン行動データでは推測や仮説でしかなかった顧客の行動が、リアルデータで分析されて手に入る。これは企業にとっては貴重なデータです。
しかしベータはそれだけではなく、テクノロジーを利用して無人販売などで、ただデータを収集するだけでなく接客を行い、商品の”体験、発見”の場としての店舗の付加価値を高めていくというコンセプトがあるのです。つまりリアルの顧客体験のデータこそが何よりも価値の高いデータだと位置づけていることがわかると思います。


消費者行動はこの数年でオフラインからオンラインに急激に変化してきました。リテールのゲームチェンジが起きたときに、もう一度オフラインの強みは何かと考えると、”体験、発見が出来る場所”という事に収束されていったといえるのではないでしょうか。
リアル店舗の主目的を”売る”のではなく”出会いの場”とすることで、そこでの顧客体験を向上させることに力を注いでいくことがこれからの店舗の存在意義になってくるのだろうと考えられます。
またECの台頭により、メーカーが直接顧客に販売することが容易になりました。しかし、オンライン上での交流では、簡単には顧客の体験や発見のデータを得ることは難しく、またリアル店舗を構えるということは費用的に容易いことではありません。
そういった企業にとってRaaSのようなサービスを利用していくということが、いち早く顧客の心をつかみ、売上を拡大するための有効な手立てとなりうると思います。
ベータはこの仕組み自体を販売していくということなので、RaaSのサービスが広がるスピードはさらに加速すると思われます。今後の動きに注目したいですね。

■もう一つの事例:docomoの「THE-ST(ザ・スト)」

THE-ST : ヒトの五感である「触覚= Tactile」「聴覚= Hearing」「視覚=Eye」「嗅覚= Smell」「 味覚= Taste 」 それぞれの英語の頭文字を取り、通常店舗では得られがたい深い商品体験を提供していきたいという想いが込められている

docomoは、”体験”に特化してオンライン・オフラインの購買行動を可視化する RaaS 領域の新たなソリューションとして「THE-ST」というソリューションの開発を進めています。
ベータとの違いは、メタバース空間でオンライン店舗を作り、リアルとメタバースの2つの空間で楽しめる商品体験を提供しているということです。
出展企業には消費者が商品を知る、使うといった行動とクラウドカメラを利用して店舗での行動を俯瞰し分析してそのデータを提供、商品開発やマーケティングに活用することで、より魅力的な製品・サービスを生活者に提供できる支援を行っていくサービスです。


2022年には、三井不動産との協業で、商業施設内に玩具メーカーが展示するスマートトイを体験するポップアップストアを展開。普段、パッケージに包まれていて体験することのできない商品を自由に体験することで、その後のオンラインでの購買行動につなげていくというものでした。
私も2児の母なのですが、おもちゃに関しては子どもの興味関心がまっったく読めないので、せっかく購入しても手つかずで放置されていることも少なくありません。なのでこのような店舗で子どもとの相性を見れる場所があるのはありがたいですし、やはり仮説や予想より体験が優位なので、少々単価の高いものでも購買を決断する後押しになると思います。


■OMOが小売りのスタンダードになる

OMO:Online Merges with Offline の略称で直訳すると、オンラインとオフラインを併合することという意味。ECと実店舗の垣根を越えてマーケティングを展開すること。

リアル店舗で得た顧客体験を可視化して、企業にフィードバックし、取得したデータをさらなる顧客体験の向上に繋げるというループは、店舗というリアルな「場」も含めて全てが常時デジタルに繋がっていることが前提となって来ています。(つまり、オフラインという状態は存在しない)
そこにはかつての”O2O”のように相互送客のような概念ではなく、常にオンラインのデジタルデータの上にすべての機能が集約され、展開されていくことが小売業界として「当たり前」の状態となっていくことを意味すると思います。
既にリアル店舗とオンライン店舗の施策や顧客を別々に考えている人は少なくなってきているとは思いますが、今後は一層の連携を図っていくことになります。
また、docomoの例でもあるように、オンライン店舗がメタバース化していく流れもあると思います。
その際にはやはりリアル店舗の知見が無ければ、オンライン店舗に来店された顧客に最適な購買体験は提供出来ず、顧客離反を引き起こすこととなるでしょう。その為にもRaaSのようなサービスにの価値は高まっていくと思います。

■最後に

”RaaS”とは消費行動の変革ではなくて、リアル店舗でしか得ることのできない購買体験を可視化することで資産化し、それを元にリテールビジネスを高度化させていくものだと思います。そこには、数年前によく耳にしていた「リアル店舗はオンライン店舗のショールーミング化している」というような諦めのようなニュアンスは感じられません。

大切なことはいつの時代も目の前のお客様に対して意識をどれだけ傾けられるかだと思います。
そして私たちも常にクライアントのその先にお客様がいることを忘れずにいたいと思います。

弊社ではshopifyをベースにしたOMOのサービスがございます。
ご興味がある方はぜひお気軽にお問い合わせください!
オムニコネクト:https://www.ad-sail.jp/omniconnect/

この記事を書いた人

松木さやか 地域創生部

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