シンポジウム登壇レポート「香川のお酒の歴史から、小豆島酒造の販売戦略~今後の課題について」

マーケティング, 雑記

香川大学大学院 地域マネジメント研究科 主催
第19回シンポジウム【かがわの酒と食のマリアージュ】

2022年9月3日(土)、香川大学にて開催されたこのシンポジウムに登壇したので、そのレポートを書いていこうと思います。

大学院への進学(就業しながら通学しています)

実は、2022年4月から仕事をしながら大学院生をしています。
香川大学大学院地域マネジメント研究科で、卒業するとMBA(経営学修士)が取得できるコースです。ビジネススクールなので、大半が社会人学生です。

進学のきっかけは、私の従事するデジタルマーケティングの仕事内容は非常に幅広く、クライアントの意思決定の場に立ち合うことも多くあり、できるだけ源流である経営層と対等に話ができるスキルを身につけたかったからです。

大学では建築(インテリア系)を学んでいたので、経営学は全くの初心者…けれど、多くの仲間と共に学べる場を得られたことは、本当に幸せだなぁと思うと同時に、刺激だらけの日々を楽しく過ごしています。
(就業後に大学に行って、その後、会社に出向き、課題と仕事をわやくちゃになりながらさばいて、深夜に帰宅、というめちゃくちゃ忙しい生活です。)

毎年行われている、学生主催のシンポジウム

入学式の後のオリエンテーションで、教授陣から「シンポジウム頑張ってね」と言われ、
はてさて?一体なんのことやら(笑)…当初は学生全員戸惑っていました。

テーマの【かがわの酒と食のマリアージュ】についてですが、研究科の仲間で何をテーマにするか話し合いを行う中、私が「お酒が好きだからお酒に関わる内容がいいな」と言ったところから話が進み、実行委員もすることに・・・これも、本当にいい経験をさせていただいたなと思います。

シンポジウムは3部構成でした。

■第1部:基調講演
「香川のお酒の歴史から、小豆島酒造の販売戦略・今後の課題について」
池田 亜紀 氏(小豆島酒造(株)蔵責任者)

■第2部:学生によるプレゼンテーション

■第3部:パネルディスカッション
「香川県の酒と食のマリアージュによる地域活性化について」
[ファシリテーター]
松尾 英理子 氏 (サントリーコーポレートビジネス(株)東日本支社営業部長)
[パネリスト]
酒井 史朗 氏 (西野金陵株式会社製造課長)
西村 美樹 氏 (香川大学大学院地域マネジメント研究科特命講師)
石床 渉 氏 (せとうち観光専門職短期大学観光振興学科准教授)

この第1部の基調講演を対談形式にして私が聞き手となり、ステージでお話をお伺いしました。

小豆島酒造(株)池田さんとの対談

『香川のお酒の歴史から、小豆島酒造の販売戦略~今後の課題について』というタイトルで、お話をお聞きしていきました。
その中から、販売戦略について詳しく書いていきたいと思います。

小豆島酒造 蔵責任者 池田亜紀氏

小豆島酒造は、小豆島で唯一の酒蔵です。
高松市栗林町に、前身の池田酒造があったのですが、周辺の環境が変わっていくにつれ継続が難しくなり、廃業。
このままでは酒類製造免許が失われる=香川の1つの酒蔵が永遠に失われる(今は新たに免許が発行されることはない)ので、2008年に小豆島に移転し、森國酒造として創業。池田さんは翌年の2009年より清酒製造業に携わり、その後2019年に小豆島酒造(株)と名前を変え今に至ります。

観光地小豆島の地酒としての製造販売と、敷地内にカフェと酒米のベーカリーを併設し、国内外から多くの観光客が酒蔵を訪れています。

日本酒は、蔵の大きさや歴史を重視される

悲しいかな…歴史の浅い酒蔵の日本酒は、ごく最近まで、なかなか流通に乗せてもらえない時代でした。ラベルも筆で豪快に書かれた力強いものが主となっていて、カジュアルなデザインや少し変わった形のボトルは、日本酒らしくないと店頭での販売を断られたこともあったそうです。

池田酒造の歴史はありましたが、森國酒造や小豆島酒造の名前ではなかなか販路を見いだせず、悩まれていた時期がありました。
しかし、
<『歴史がない』『ネームバリューがない』『蔵の規模も小さい』、3ないの小さな酒蔵だからこそ、個性を大事にし、他社がやらないことを進んで実行する。>
という考えで、いわゆるマーケティングで考える基礎中の基礎であるフレームワークSWOT分析の【外部環境分析】Opportunity(機会)・Threat(脅威)、【内部環境分析】Strength(強み)・Weakness(弱み)から、発想の転換をし、独自の販売戦略を組んでこられました。

お酒の味を安定させない

対談風景

これは、多くの酒蔵にとって、意表を突く取り組みともいえます。
例えば、「○○酒造の純米吟醸は辛口で□□な飲み方がおすすめ」のような、銘柄と味を結び付けて、その組み合わせを一定に保つのが一般的とされています。

小豆島酒造でつくるお酒は、同じ銘柄でも毎年味が変わるといいます。それは、気候や材料が毎年全く一緒ではないので、もともと同じ味のお酒はできないという事実を受け止め、複数年のお酒をブレンドさせないというこだわりから。

さらに、温度や期間といった保存方法の違いから、一つの樽で仕込んだお酒を様々な味わいに変化させる取り組みも行われています。
私は、ワインのような製造販売方法だなぁと思いました。今まで当たり前とされていた作り方に、真っ向から立ち向かって、新しい文化を作り上げています。

良さを分かってくれる人に販売する

大手の料飲店に卸しておられません。それは、生産量が多くないことから、大きな酒蔵のお酒と同じ土俵では戦っていけないという理由もありますが、小豆島(瀬戸内)の材料を使い、小豆島を味わえるお酒として売りたいという思いから、基本的には小豆島の料理が食べられる宿やお店で味わう、もしくは、お土産として買って帰ってもらう、あとは、このお酒とこの料理を合わせたいという”小豆島酒造のお酒”に対する理解のあるレストランやホテルとの取引に限定されています。

確かに、旅行で小豆島に来て買って帰ったお酒が、近所のスーパーに置いてあった・・・なんて、ショックですよね。

海外に販路開拓

池田さんが2010年にオーストラリアへ渡った際、日本とは違い、蔵の大きさや歴史など全く関係なく、小豆島酒造の特徴のある酒質で勝負が出来ることを確信したそうです。

2016年にパリで開催されたイベントへの参加をきっかけに、フランスへの輸出がスタート。高所得者層をターゲットとした高価格帯商品を展開、フランスではリッツカールトンなど高級ホテルへの参入を果たし、飲食店を中心に販売は順調で、定着とさらなる販路拡大に注力するために新たな顧客層向けの商品開発にも取り組んでおられます。
海外の販売先は、フランス・カナダ・オーストラリア・韓国・中国の順に多く、アメリカへも進出をしていくとおっしゃっておられました。

現在はインバウンドは低迷していますが、徐々に回復の兆しが見える中、自国で味わった小豆島酒造のお酒を、造っている小豆島に行って飲みたいと思い来日されるお客さまもじきに戻ってくるのでは。このように島の観光産業の盛り上げの一端も担われています。

自分たちで取り組む、原料の酒米づくりと棚田の維持

中山千枚田(うどん県旅ネットより)

小豆島は平地が少ない地形です。生活者の知恵から、美しい景観を見せる棚田が多くありますが、維持管理は地域の課題でもあります。
「日本の棚田百選」にも選ばれた『中山千枚田』での酒米づくりを社員全員で取り組んで、小豆島のお酒という意識を強めるとともに、地域貢献にもつながっています。

小豆島内の事業者と連携した6次産業化の取り組み

日本酒から広がる幅広い提供商品

取材で訪問した時に、併設するカフェでいただいた粕汁が、何とも美味でした。今では当たり前のようになっていますが、酒蔵でカフェを経営すること自体、少し前まで業界内では逆風が強かったそうです。
しかし、近年の日本酒離れからファンを取り戻すため、先進的に取り組んでこられました。気軽に日本酒に触れるには食と合わせるのが一番との考えから食事提供を行い、酒粕のジェラートや甘酒のスムージーなどのデザートに幅を広げ、それからベーカリーでは酒米の搗精(とうせい)で残った米粉で作ったパンを販売し、また小豆島で取れた果物を日本酒だけで炊いたジャムを作り、そして酒粕は石鹸にまで商品展開しています。

日本酒を中心として、また日本酒造りで出てきたものを余すことなく活かす、それだけでなく、カフェでの残り物を給餌した放牧豚のお肉を使用した「サステナブルブレット」を提供したりと、今流行りのSDGsに通じる取り組みも積極的に行われています。

個人的には、酒粕せっけんにドはまりしました。洗顔に使っているのですが、全く突っ張らない!肌の弱い人にも利用いただけるそうで、超オススメです。
他の商品も魅力的なものがいっぱいです。小豆島に訪れた際は、皆さま是非小豆島酒造に寄ってみてはいかがでしょうか。

蔵責任者 池田さんより

熱いお気持ちをお話いただく池田さん

『小豆島で経営を続けていくには、島民の協力なしではやっていけません。また、移転先として新参者を受け入れてくれた小豆島の人たちに感謝の気持ちをお伝えするには、多くの観光客に小豆島に来てもらってなんぼです。そのきっかけを小豆島酒造は模索し、事業展開をしています。
森國酒造から小豆島酒造に改名したのもそのため。内外ともに、より地元のお酒として親しみを持ってもらえるように。
小豆島酒造で働くスタッフは、島外から移住してきた若い女性がほとんどなんです。
しかも、機械を極力使わず手作業で酒造りをしています。研究も力仕事もみんなで取り組み、愛情をかけてお酒造りをしています。
小豆島の方々に大事にしていただきながら、お酒造りの時は、今では珍しくなった”季節杜氏”さんが来てくれるので、スタッフ含めみんなで知恵と工夫を持ち寄り、常に新しい酒蔵のあり方を模索し、観光地小豆島で酒蔵を継承していけるように頑張っています。』

モノづくりに対するこだわり、従来の伝統を大事にしつつ新しい切り口を見つけて自分たちのポジションを作っていく販売戦略、地元の人たちとの協力関係、そして何より、飲んでいただく人たちに満足を届けられるよう、常に努力と勉強をされている池田さん。

小豆島酒造には、素晴らしいリーダーがいます。


最後に

大学院での学習は、学術的な考え方や言葉の定義を学び、リスク回避や対処の方法といった引き出しである知識を、たくさん身につけられます。
ただ、実地で体験している人の危機感から出てくるスピードある判断力は、その場で体験しないと湧いてこないもの。
知識と経験、その両方がマッチした時、決して新しいアイデアではなくても、知識の組み合わせでいい提案は生まれてくると考えます。

そして、インプットだけではなく、対人関係の中でアウトプットを行うことで、自分の中で理解力が増していくことを実感したシンポジウムでした。私のように、わざわざ教育機関に行かなくても、仕事の中にも多くの学びは隠れています。それに気づくか気づかないかは大きな差。
いつまでも探究心を持ち続けられる人は、マーケティングに関わる仕事や経営コンサルに向いているかもしれませんよ。

  • 香川大学大学院地域マネジメント研究科に興味を持たれた方
  • 小豆島酒造に興味を持たれた方
  • マーケティングに興味を持たれた方

色々話聞きたい!と思われた方は是非、お問い合わせ頂けたらと思います。

ここにはまだまだ書き切れていませんが、本当にたくさんの経験をした夏でした。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。

この記事を書いた人

野々目 千夏 顧客開発部 課長

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